細かな美しさや健やかさに目を向ける。俳優・小林聡美さんが見つけた暮らしのなかのよろこび

俳優 / 小林聡美

公開日:2024年12月2日

内容、所属、役職等は公開時のものです

さまざまな方に“いい時間”について伺いながら、「心地よい暮らし」や「理想の生き方」を教えていただき、こころとからだの健やかさのために、私たちキリンができることを考えていく「#あなたの“ウェルビーイング”教えてください」。

今回お話を聞いたのは、俳優として活躍する小林聡美さんです。若い頃から俳優として第一線で活躍し続けている小林さんですが、エッセイやインタビューなどで見せる飾らない人柄や日々の暮らし、趣味のこと、自分らしい年齢の重ね方が多くの女性から共感を得ています。

「自分軸でどれだけ心地よくいられるかが、ウェルビーイングにつながっていくのではないかと思うんです」そのためにも“日々の暮らし”が大切と話す小林さん。心地よく軽やかな空気を纏った柔らかな佇まいと笑顔に現場も和んで、楽しいおしゃべりがはじまりました。

小林聡美

俳優

1965年東京都生まれ。1982年「転校生」(大林宣彦監督)でスクリーンデビュー。主な出演作にドラマ「やっぱり猫が好き」「すいか」、映画「かもめ食堂」「紙の月」「ツユクサ」、舞台「あの大鴉、さえも」「24番地の桜の園」「阿修羅のごとく」など。主な著書に「茶柱の立つところ」「わたしの、本のある日々」「聡乃学習」など多数。第88回キネマ旬報ベスト・テン女優賞、第57回ブルーリボン賞助演女優賞、第38回日本アカデミー賞助演女優賞、第36回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第4回ヨコハマ映画祭新人賞、第6回日本アカデミー賞新人賞。2024年はドラマ「団地のふたり」が話題に。2025年放送連続ドラマW「ゴールドサンセット」(WOWOW)に出演。

01

日々を乗り切る糧になる、“お楽しみ貯金”

この夏は忙しくてあまり出かけられていなかったので、先日ふと思い立って箱根の日帰り温泉に行ってきたんです。一人でロマンスカーに乗って。座席が進行方向に向いている車両に乗っているだけで、わ〜って気分が上がりましたね。車窓からの次々と変わる自然の風景を眺めていると、「ああ、もうこれだけで贅沢だな」って思いました。その景色を写真も撮らずに、ただただ眺めていました。

時間があるときにどれだけ自分の“お楽しみ貯金”ができるか。その時間をいかに確保できるか。楽しい体験の蓄えが忙しい日々を乗り切る糧になるのではないかなと、この頃感じています。趣味の時間って、仕事が忙しくなってしまうと物理的にとれなくなってしまいがちで、私も遊びに行ったり、趣味の時間を持つことができなくて、「暮らしに余裕がないなぁ」と感じることもあります。

気分転換にピアノの練習をしてみても、「セリフも覚えてないのに、こんなことをしていいのか?」って集中できないんです。そういうときはもう割り切って、楽しみはちょっとの間ガマンして、目の前の仕事を頑張ろうと。

02

身近なものこそ、自分が本当によいと思うものを

先日、フリマアプリで一輪挿しを買ってみたんです。イギリスのシリーズドラマを観ていたら登場人物の部屋で使っている雑貨や食器が素敵でいいなと思って。ボヘミアングラスなのだけど、そういうのってどこで売っているのかよくわからないじゃないですか。それでフリマアプリで「ボヘミアン 花瓶」って検索したらいっぱい出てきて。

棚に置かれた一輪挿しがふと目に入ると、「あ…」って一瞬嬉しくなる。些細なことだけれど、その一瞬で豊かな気持ちになります。

最近あらためて思うのが、きれいな景色やものを見たり、触れたりすることって本当に大事だなということ。旅先できれいな景色を見ることもそうだけど、部屋に置くものもそう。自分がきれいと思えるものを、意識して使ったり所有したりして、心地いいものに囲まれて暮らすことが、日々の暮らしをちょっと豊かに感じさせてくれるのだろうと思います。

それは自分自身に対しても同じ。「美は細部に宿る」じゃないですけど、髪を整えたり、爪をケアしたり。きれいにしていると自分が気分よくいられるだけでなく、それを見たまわりの人も気分がよくなるんじゃないかなと。若い頃は髪がボサボサでもそれも自分らしくていいやなんて思っていたけれど、これからは細かいところもちょっと意識しながら、年を重ねていけたらいいなと。この頃は、そんなことも考えています。

03

エッセイや俳句は、自分の気持ちに気づかせてくれる

みんなといると自分のことを話すより、聞く側でいることのほうが多いように自分では思います。意外と話し下手。そんな私にとって、エッセイや俳句を通して感じたことや思ったことを言語化することは、自分の内面を確認する作業でもある気がしています。「私って、本当はこういうことを思っていたんだ」って書きながら気づいたりして。言葉として綴ることは、いろいろな感情が整理されたり、自分の想いを伝えるいい訓練になっているのかもしれません。

俳句は、日常とはまた違う世界に心が飛ぶ感覚で、気持ちの切り替えにもなっています。毎回の句会では兼題といって、2つの季語がお題として出題されます。過去の体験だったり、感じた記憶だったり、そういったものをコラージュしていくようなイメージかな。じっくり考えるよりも、パッとひらめいた時にいい句ができることも。浮かんだ言葉をなんとなく切り貼りしてみたら、意外といい感じになったりして。忙しい時でもふと俳句の宿題を考えると頭の中に別の世界が広がる。それが気分転換にも心の潤いにもなっています。

ただ、言葉で表現するよさを感じる一方で、言葉で表現できないことも大切にしたい。うちには猫がいるのですが、生き物が家にいるということだけでも、ちょっとホッとできるんですよね。それは単なる“癒し”だけではなくて。

猫には言葉が通じないので、「今どうしてるんだろう」って想像力を働かせないといけない。そうやって触れ合っているうちに、思い通りにならないことを受け入れることを教わっているような気もします。

だらだらと寝ているだけですべてを受け入れてもらえる猫って、うらやましいですよね。何をしても「かわいい、かわいい」って言われて(笑)。エッセイや俳句のように言葉にするから伝えられる景色もあるけれど、猫と暮らしていると、言葉だけがすべてじゃないなとも思うんです。

04

何ごともほどほどに。やっぱり健康がいちばんです

来年で還暦を迎えますが、あらためて日々健康がいちばんだなと感じています。健康でいるだけでもう幸せなんじゃないかな。過渡期である30代〜40代はいろいろな体や心の変化に戸惑うこともあったけれど、50代は意外と安定しています。自分の体のこともなんとなくわかってきて気をつけるようにもなるし、ちょっとずつ学習できてきているのでしょうね。

最近、まわりのかたが気を遣ってくださって、「椅子に座ってください」なんて言われることもあるから、そんな時は変に遠慮しないで、素直に親切にしてもらおうって思っています(笑)。

今は健康なので不自由なく心も安定していますけど、もうちょっと年をとって病気になることがあったら、どんな気持ちになるんだろうと想像をするとやっぱり不安にはなりますよ。だからこそ、健康でいられるだけで幸せと、今感じているのかもしれませんね。

人って気付かないうちにストレスが溜まってしまうことがあると思うんですけど、そこは踏ん張りすぎないで手を抜くところは抜いて。「それは今やらなくてもいいことなんじゃないの?」と自分に問いながら、意識的に休むようにはしています。今日やらなくてもいいことは明日やればいいか、と何ごともほどほどに。気楽にね。

05

これからの、ひとりの暮らし方を考える

これから挑戦したいこと。なんでしょうね。

70歳過ぎても元気な方はたくさんいますけど、思い通りに体が動いて動き回れるのは60代くらいまでかなと思うと、これからの10年ってすごく貴重だと思っています。ちょっと無理してでも行ったことのない国を旅してみたいなと思っています。

若い頃もよく旅しましたが、気に入った国も「人生長いしもう1回くらい行けるだろう」と思っていても、結局それっきり行けていなかったりして。行きたくても情勢の問題で行けなくなってしまう国もあるし、今は本当に何があるかわからない時代なので、未来のことも現実的に考えるのが難しいというか、考えれば考えるほど悲観的にもなりがち。

だからこそ、日々の暮らしや身のまわり、身なりも整えておくことは、気持ちを保つためにも大切だなと思います。結局、日々の暮らしが自分を支えているんですよね。

仕事柄、顔を知られているからといって、行動が制限されてしまう人生はすごくもったいないと思っていて。若い頃から気になる場所にはどんどん出かけることを意識していました。わざわざ“普通”っていう言い方は鼻につくからあまり好きではないけれど、日々の当たり前の暮らし、普通の暮らしをこれからも大切にしたいと思っています。

自然が好きなので田舎暮らしにもずっと憧れていますけど、現実的に力仕事も多いし、熊が出てきたらどうしようとか。あれこれと考えているとやっぱり協力者がいないと難しい。そうこうしているうちにどんどん時は進んでしまうんですけど、どうしたもんかなと思いながら、自分らしいこれからの暮らし方について考えていきたいですね。

  • 撮影西谷玖美
  • テキスト高野瞳
  • ヘアメイク北一輝
  • 編集花沢亜衣、株式会社RIDE

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