よく食べ、よく笑い、好きなことに夢中に。料理愛好家・平野レミさんのシンプルな生き方

料理愛好家 / 平野レミ

#エッセイ・コラム

#あなたの“ウェルビーイング”教えてください

さまざまな方に“いい時間”を伺いながら、「心地よい暮らし」や「理想の生き方」を教えていただき、こころとからだの健やかさのために、私たちキリンができることを考えていく「#あなたの“ウェルビーイング”教えてください」。

今回お話を伺ったのは、料理愛好家の平野レミさん。「キッチンから幸せ発信」をモットーに、簡単でおいしいユニークな料理レシピを提案。元気いっぱいで豪快に料理するレミさんの姿は、いつでもお茶の間に笑顔を届けてくれます。

レミさんの魅力はレシピだけでなく、自由な生き方や、悩みもモヤモヤも吹き飛ばすようなポジティブな発言の数々。「よく食べて、よく笑って、よく寝て、好きなことに夢中になる」。レミさんのシンプルな生き方と健やかに過ごすための心の持ち方を伺いました。

平野レミ

料理愛好家

料理愛好家、シャンソン歌手。東京で生まれ。主婦として料理を作り続けた経験を生かし、「料理愛好家」としてテレビ、雑誌など多方面で活躍。“シェフ”ではなく“シュフ(主婦)料理”をモットーに、アイデアあふれる、おいしくて楽しい料理が人気。元気印の講演会やエッセイを通じて明るく元気なライフスタイルを提案するほか、自ら開発するレミパンやジップロン(オリジナルのエプロン)などのキッチングッズも好評。エッセイ「おいしい子育て」(ポプラ社)は、第9回 料理レシピ本大賞のエッセイ賞を受賞。
近著の「平野レミのオールスターレシピ」(主婦の友社)をはじめ、初のマンガレシピ本「平野レミのマンガでわかる料理教室」(カドカワ)も好評発売中。3月には新刊の「平野レミの自炊ごはん」がダイヤモンド社より発売予定。ほか著書は50冊以上。

01

「好きなことを徹底的にやれ」。父の言葉をいつも胸に

小さい頃から食べることが大好きでした。よく、小学校から帰ってきてランドセルを背負ったまま家庭菜園に行っていましたね。畑でトマトをもいで、スカートでゴシゴシって拭いて、ムシャッとそのまま食べたりしていたんですけど、それがおいしくて。ある時ふと「このおいしいトマトで料理をしたいな」と思ったんです。ちょうど台所にあったピーマンとうどんとチーズを、なんとなく炒めてみて、グラタンみたいなでたらめ料理を作っちゃった。それがまたおいしくてね。素材はちぐはぐだけど、合体させるとこんなにおいしくなるんだって感動したの。そういう幼少期の体験から料理のおもしろさに目覚めました。

「好きなことを徹底的にやれ」。父はいつもそう言ってくれました。今でも胸にしまっている大切な言葉です。若い頃から歌うのが好きで、父の薦めで本格的に声楽を学ばせてもらってシャンソン歌手に。ラジオ番組にも出させてもらって、その頃に夫の和田誠さんと出会ったんです。

結婚してからは、和田さんと家庭で過ごす時間が楽しくてね。その時間が大好きだったから、だんだん歌うことから遠のいてしまったけれど、その分大好きな料理は毎日たくさんしていました。家族のためにいろいろな料理を作っていたら、料理を紹介してほしいとお仕事をいただくようになって、そこから「料理愛好家」として活動するようになりました。

02

料理に決まり事はない。食材の組み合わせも無限

私の料理といえば、安くて、手早い、おいしい料理。昔はもっと難しくて手間のかかる料理もしていたんですよ。今のような料理になったのは、和田さんと結婚してから。あるとき、和田さんが「トマトジュースと牛乳を1:1で合体させるとおいしいよ」と言って、グラスに注いで、そこに塩と胡椒を振りかけて、オリーブオイルをちょっと垂らしてバジルをちぎって入れてくれたんですね。それが、おいしくって。お料理のいちばん極端な形はこれでいいんだって驚きました。そこから簡単でおいしい料理に目覚めたのね。

和田さんは、料理は自由で決まり事はない、ということも教えてくれました。ある寒い雪の日、私は地方での仕事を終えて、寒い寒いと言いながら帰ってきたんです。和田さんが子どもたちに夕飯を作ってくれていて、「みんなでこれを食べたんだよ」とあったかい煮込み料理を出してくれました。大根やにんじん、れんこんも全部皮ごと切って鍋に入れて、大きな豚肉をぼこんぼこん入れて、梅干しも入っていて。それがすごくおいしくて…。大きな豚のバラ肉も、梅干しのおかげですごくさっぱりと食べられて。心も身体も温まって、「ああ、家庭料理っていいな」って沁みました。

その料理を見て、おいしければどんな食材を組み合わせてもいいんだ、料理に決まり事なんてないんだって気づいたの。「料理が苦手」ってよく聞くけど、食べられるもの同士なんだから何を組み合わせても大丈夫。あとは塩や胡椒、唐辛子などの調味料を加減しながら加えていけば、たいていおいしくなるんだから!

03

子育ては食事から。3代受け継ぐ、食べる楽しさ

子育てでなにか特別なことをしているわけではないけれど、食べることはとても大切にしていました。食べるときはテレビを消して、家族で楽しくテーブルを囲みます。座る席は決まっていたけれど、子どもの食欲がない日は、庭が見えるお父さんの席に座らせて雰囲気を変えてみたり。そうすると不思議と食べるようになるのよね。カレーだからってカレー皿じゃなくてもいいじゃない。九谷焼のお皿や耐熱のガラス皿に盛り付けて変化をつけたり。そうやって楽しく食べる工夫は、いつも考えていました。

嫌いな食べ物も、「食べなさい!」とは言いませんでした。私もそうやって育ったから。私は茄子が嫌いで食べなかったけれど、大人になったらちゃんと茄子のおいしさに気づいて食べられるようになりました。だから、子どもに押し付けることはしません。息子が幼稚園の頃にしいたけとにんじんが嫌いで、細かく切ってハンバーグに入れてわからないようにしてお弁当に入れたの。先生に「食べたら褒めてあげてください」ってお願いして。帰ってきた息子に「全部食べたの?」って聞くと、息子も「このくらい食べられるよ」って誇らしげなの(笑)。そしたら次の日はもう少し大きめに切って入れたりしてね(笑)。

「食べないとダメでしょ!」って怒っちゃうと、ごはんを食べる時間が嫌いになるかもしれないし、怒ってばかりのお母さんまで嫌いになっちゃうかもしれない。だから怒ることはしなかった。褒めたほうがいいよね。今では息子もなんでも食べますよ。もう大人だけど。

あと大切にしているのは、野菜をたくさん食べること。お肉を食べるときも、まずは野菜から。次男が結婚するときに、お祝いのプレゼントと一緒に「肉の3倍野菜を食べてね」ってメッセージを贈ったの。お嫁のあーちゃん(和田明日香さん)は、今でもしっかり守ってくれています。孫たちを預かって私がごはんを作って出すと、長女が「まずは野菜から」ってちゃんと言うの。次女も「知ってるよ!」って。

先日も家に遊びに行って夕飯をごちそうになったけど、食卓には何品もお料理が並んでいて、野菜もたくさん。牡蠣のパエリアがすごくおいしかったな。息子たちに料理を教えたことはないけれど、食べることの楽しさは伝わっているみたいね。息子たちからお嫁さん、そして孫たちと、3代に渡って受け継がれていますね。

04

よく食べて、よく笑って、よく寝て。人生はシンプル

先日、お医者さんから聞いたのだけど、「今日、食べたものが3か月後に自分の肉となり血となる。だから、毎回真面目に考えて食べないと、3か月後が大変ですよ」って。だから、私もちゃんと肉も魚も野菜もバランスよく食べています。よく食べて、よく歩いて、よく笑って、愛猫のちーちゃんとたくさん寝る。それが元気の源かな。毎日、散歩もします。ひと駅分くらい平気で歩いちゃう。エレベーターも使いません。歩くのは簡単だしタダなんだから!せっかく付いている脚を使わないともったいないからね。

あとは、嫌な人と付き合わないこと。すごくシンプルでしょ。冷たいようだけど、人は人、自分は自分。私は人からどう思われるかは気にならないの。大好きなお料理に夢中になったり、大好きな家族や友人と会ったりしていたら、人の暮らしを気にする暇なんてないからね。嫌なことがあってもワインを飲んで寝たら、翌朝にはなんてことないなっていう気持ちになっちゃう。シチューやカレーってひと晩寝かせるとカドがなくなって味が丸くなるじゃない?人間も同じ。頭にくることがあっても、ひと晩寝かせたら気持ちがマイルドになるのよね。

今後の目標は?ってよく取材でも聞かれるけど、私は目標を持たないようにしています。好きなことを続けていって、過去をパッと振り返った時「これが私の目標だったんだな」って初めてわかると思うの。だから、来年のことも再来年のことも考えません。年齢を重ねることが不安という人もいるけれど、不安にならないためにしっかりと栄養のあるものを食べて運動をして、笑い合えるような人たちと付き合う。そして、好きなことを持つこと!好きなことはなんだっていいと思う。仕事にしなくてもいいし、趣味でもいいじゃない。私だって料理の勉強なんてしたことないけれど、大好きだからずっと続けています。

そのくらい人生は単純。1年の終わりに、「今年も充実してたな。毎日楽しいな」そう思えたら、人生は楽しいよね。

  • 撮影七緒
  • テキスト高野瞳
  • 編集花沢亜衣、株式会社RIDE

公開日:2024年2月16日

内容、所属、役職等は公開時のものです

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