「身体と心の調子がよければ、大抵のことは大丈夫」。U-zhaanさんが考える自分と周りの心地よい状態

タブラ奏者 / U-zhaanさん

公開日:2022年12月21日

内容、所属、役職等は公開時のものです

さまざまな方に“いい時間”を伺いながら、「心地よい暮らし」や「理想の生き方」を教えていただき、こころとからだの健やかさのために、私たちキリンができることを考えていく連載。

今回は、北インドの伝統的な打楽器・タブラの奏者として、ライブ活動や楽曲制作を通じて、ジャンルを超えた幅広いミュージシャンとコラボレーションを実現、さらにベンガル料理に特化したレシピ本を監修するなど、多方面で活動するU-zhaan(ユザーン)さんにお話を伺いました。

U-zhaan

タブラ奏者

オニンド・チャタルジー、ザキール・フセインの両氏からインドの打楽器「タブラ」を師事。2014年、ゲストに坂本龍一・Cornelius・ハナレグミ等を迎えたアルバム『Tabla Rock Mountain』を発表。2021年にU-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESSによるアルバム『たのしみ』、2022年に蓮沼執太との共作アルバム『Good News』をリリースしている。

01

偶然の出会いから始まった、タブラ奏者への道のり

タブラを始めるきっかけは、地元のデパートでやってた民芸品フェアなんですよ。インテリアに良さそうなサイズ感の太鼓を見かけて、つい衝動買いしてしまったのがスタートです。叩き始めてから27年になりますが、今でも最初と同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上の熱量で練習しているかもしれません。そうやって続けられているのは、師匠に恵まれたことが大きいですね。

僕には2人の先生がいます。オニンド・チャタルジー、そしてザキール・フセインという、タブラ界の東横綱と西横綱みたいな人たちなんですよ。師事できたのは本当に幸運だったなと思います。彼らの演奏を聴いたり、タブラを教えてもらったりすることが僕の人生の中心にいつもあります。

ザキール先生からは主にアメリカで指導を受けてます。年に一度、世界中の生徒を集めて1週間くらいレッスンしてくれるんですよね。コロナの影響で海外渡航が難しくなってからは、オンラインでも参加させてもらえるようになりました。

ザキール・フセイン先生の自宅にて。

今年も夏にみっちりレッスンを受けました。全部で15時間くらいかな?その時に、僕が環ROYと鎮座DOPENESSと一緒に作った『BUNKA』という曲をなぜかすごく褒めてくれて。他の生徒たちにも「あのミュージックビデオ最高だからみんな見たほうがいいよ」って勧めてくれたりしたんですよね。ちょっと気恥ずかしかったけど、嬉しかったです。

『BUNKA』ミュージックビデオ

オニンド先生にはインドのコルカタで習っています。コロナになる前は毎年インドに通ってました。インドに行くのはレッスンを受けるのがもちろん最大の目的ですが、楽器のメンテナンスも重要で。タブラって消耗品なんですよ。叩いているうちに皮がどんどん劣化していっちゃうので、定期的に皮を張り替えたり、新しいものに買い替えたりする必要があるんですよね。なので、使っていくうちに楽器の鳴りが良くなっていくギターやヴァイオリンのような楽器がうらやましくなったりします。

目上の人への挨拶「プラナーム」をオニンド・チャタルジー先生にしている様子。

最後にインドへ行ったのは2020年1月です。行きの飛行機は普段通りだったけど、帰りは乗客全員がマスクをしているような状況でした。3年近く行けていないので、皮が破れまくってます。叩ける楽器がなくなりそうになってきたから、インドのタブラ屋に修理してもらうために船便でタブラを5つ送ったんですが、送るだけでかなりの関税をかけられてショックでした。

ムンバイのタブラ屋で、注文していた楽器を受け取るU-zhaan/写真:井生明

なので、来年はインドへ行けるといいなと思っています。郵送でのやり取りだと、皮を張り替えたあとに最終チェックもできないですしね。オニンド先生にも会いたいし、しっかり練習もしたい。久しぶりに、本場のインド料理も心ゆくまで食べたいです。

02

もっと自由に演奏できるようになりたい

U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS(2022年11月3日、渋谷WWW)/写真:後藤武浩

曲を作るときは、基本的に自分が聴きたいものを作るようにしています。あんまり器用じゃないからそれしかできないだけなんですけど。たとえば、やっぱり4拍子のほうがみんな聴きやすいし音に乗りやすいんだろうとわかってはいても、どうしても6.5拍子とか5.66拍子とかの曲を作りたくなっちゃったり。自分が聴いてみたいのがそれなんだから仕方ないですが。

一方で、クライアントから依頼されるような仕事にも別の楽しさがあります。映画でもCMでも、あらかじめクライアント側がイメージしている音像がありますよね。自分にできる範囲でそのイメージと擦り合わせた結果、自分だけでは絶対に作れないものが完成したりすると嬉しいです。

まあ、僕の活動の中心は作曲や制作ではなく、あくまでも演奏です。もっと言えば練習がメインなのかもしれません。できることならずっと練習だけをしていたい(笑)。練習、楽しいですよ。なかなか上達はしないんですけど、それも含めて楽しい。

もっと自由に演奏できるようになりたいですね。思い浮かんだことを瞬時に具現化できるような、その瞬間に最適なフレーズを指が勝手に選ぶかのような瞬発力が欲しい。僕がやっている北インド古典音楽って即興の要素が強いんですけど、あらかじめ覚えてきたことだけで演奏しようと思えばそれでも成立するんですよ。だけど、本当に即興でやってるかどうかはやっぱり伝わっちゃう。僕が観客として聴いている時に楽しいのは、やっぱり演者が本気で即興している姿を見ることだから、自分もできるだけそうありたいです。

蓮沼執太&U-zhaan(2022年4月15日、ビルボードライブ東京)/写真:後藤武浩

インド音楽で即興演奏をするためには「普段だったら次はこうするだろうな」という自分の予想を、自分自身で裏切っていく必要があります。ただ、やり過ぎると音楽がぐちゃぐちゃになっちゃうこともあって。自分の予想していない新境地に行ったうえで、破綻はせずに美しくまとめられるのが理想です。ザキール・フセイン先生はまさにそれを体現したようなミュージシャンです。斬新な発想を、抜群の瞬発力と圧倒的な技術で瞬時に具現化していく彼の演奏は、もう誰にも真似ができないですね。

即興って難しい印象があるかもしれませんが、最初はちょっと変化させるだけでもいいんですよね。この音の次にこの音は出したことがないな、というのを一つだけ入れてみるとか。ほんの一ヶ所をズラすことでも道筋は変わっていく。出だしの角度の変化は些少でも、到達点は全然違ったところに行くかもしれない。逆に、最初にあんまり突拍子もないところから始めると制御不能になっちゃったりする。それはそれで面白いんですけど。

03

食べたいものを必死で考える重要性

音楽以外だと、食べることは好きです。もちろん料理もしますよ。でも、料理をすること自体に喜びを感じているわけではないかも。僕が食べたいものを完璧に察知して作ってくれる料理人がいるなら、その人を雇いたいです。

だけど、そんな人は存在しないんですよ。「さっきまで焼き魚が食べたいと思ってたけど、今は魚の気分じゃないな」みたいなことってしょっちゅうあるけど、そんなわがままを許してくれるのは自分しかいない。外出時は同行者や状況に合わせて食事を楽しむようにしますが、家にいる時ぐらいは好きに食べたいから自分で作るって感じです。

食べたい物を食べるっていうのは、なかなか大事なことなんじゃないですかね。たとえばツアーに出たりすると、外食が続くし打ち上げもあるので如実に内臓が疲れてきたりするんですよ。そんな日々を続けてようやく帰宅したときには肉も魚も食べたくなくなっていて、ルッコラとトマトのサラダとか、茹でたブロッコリーぐらいしか身体が欲しがらなかったり。そういう時に食べたいものをちゃんと口に入れていくことが体調維持につながるんじゃないかなと思います。

食べたいものがパッと思い当たらない、っていう日もあります。でも、必死に考えると何か出てきたりするんですよ。「あ、おからなら食べたいかも」とか、「四川料理を思い浮かべたら突然お腹が空いてきた」とか。その食べたくなったものこそが、身体が欲しているものなのだと信じています。行きたかったハンバーグ屋に向かっている途中、もし直前で寿司の気分になっちゃったら寿司を食べたほうがいいんだと思う。

でもこのあいだ愛媛県松山市に行ったとき、昼ごはんに欧風カレー店と鍋焼きうどん店のどちらに行こうか決めきれなくて。もしかすると身体がどっちも欲しがっているのかもな、と思って両方とも食べたら苦しくて動けなくなりました。食べ過ぎはよくないですね。

愛媛県松山市で食べた、欧風カレーと鍋焼きうどん

やっぱり、できるだけ健康でいたいです。健康って大事ですよね。身体と心の調子がよければ、大抵のことは大丈夫だから。タブラの練習に執着するのも、心の調子を上げるためなのかもしれません。指が思うように動かなくなったら絶対に落ち込みますし。

04

自分だけが心地よい状態は、全然心地よくない

ただ、もちろん健康は大切だけど人には色々な状況や事情があります。いま実際に病気や怪我と闘っている方たちもいるし、僕も含めて、いつ誰が大きな病気になってもおかしくないわけだし。もし健康を損ねてしまったとき、なるべく気持ちをポジティブに保っていられるためには社会からのサポートが必須だと思います。病気に限らず、その他の様々な問題で苦しんでいる人に対してももちろんですが。

自分だけが心地よい状態っていうのは、全然心地よくないんですよ。それがここ数年になって、身に沁みてわかってきました。本当はもっと早く気づくべきだったんですけどね。社会全体が健やかな方向に向かうことが個人個人の幸せに直結しているんだというのを、もっときちんと意識して生活しようと思っています。

  • テキスト阿部光平
  • 編集株式会社RIDE

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