「美しさ」が語る、時代の変化と価値の深まり

長年、美の価値観に向き合ってきた齋藤さんから見て、特に印象的な近年の「美に対する変化」はありますか?
齋藤そうですね、まさにこの数年は大きな転換期を迎えていると感じます。これまで美の世界では、50歳以上に向けた提案が非常に限られており、更年期以降の女性に向けた本格的なアプローチはまだこれからという状況でした。でも、最近ようやく美容業界で50代の扉が開いたことで、今後、60代、70代、80代へとさらに展開していくでしょう。「人生100年時代」という言葉が生まれるなかで、美の価値観も大きく変化していると感じます。
吉野私自身も齋藤さんのおっしゃる「50代の扉」という言葉に、強く共感しました。というのも、40代を迎えた時に「先輩たち、ありがとう」って心から思ったんです。道を切り開いてくださった先輩方のおかげで、20歳の頃に想像していた40代と、実際の今の40代では、美容における選択肢の広がりが全然違うんです。それは時代とともに築き上げられてきたものだと実感しています。
ファンケルとしては「美に対する変化」についてどのように感じていますか?
土井ファンケルが創業した当時は、化粧品に添加物が含まれ、精製度も低く、美しくなるための化粧品が逆に肌トラブルを引き起こすことが多い時代でした。そうした「不」の解消を目的に立ち上がったという経緯があります。しかし最近は、化粧品の質自体が大きく向上しています。
その一方で、お客様の悩みもどんどん多様化している。以前は「私は敏感肌です」という方が一定数いらっしゃいましたが、今は「敏感肌ではないけど毎日なにかしらの不調を感じている」という声が増えています。これは現代の生活習慣や環境の変化が、私たちの肌に新たな形で影響を与えているということかもしれません。そこにどう向き合っていくのかということを、化粧品メーカーとしていつも考えています。
吉野生活スタイルが多様化し、仕事や家事の両立、デジタルデバイスの使用増加など、さまざまなストレス要因が増えているように感じます。その中で、単に肌の状態だけでなく、生活習慣全体を見直すサポートが求められていると感じますね。

美容医療など、選択肢が増えていることについてはどうお考えですか?
土井化粧品メーカーとしても、お客様の選択肢が広がることは歓迎すべきことだと思います。ただし、その分、私たちには正しい情報提供の責任も増してきていると感じています。特に若い世代に向けて、まずは日々のケアの大切さを伝えていく必要がありますね。
吉野本当にそうですよね。美容医療も選択肢の一つですが、食生活や運動習慣など、生活全体を見直すことでさらに改善できることも多いはずです。
齋藤その点については、少し危うい時代かなと感じています。美容医療があまりにもポピュラーになってきて、今や外科医が足りなくなるほどです。これからどうなっていくんだろうという不安があります。
私は「美容医療のいらない人生」をテーマに不定期で原稿を書いていますが、美容医療の代わりに何ができるか、インナーケアもそうですし、いろんな方法を見つけていく必要があると思うんです。