「脳」は独立した器官にあらず。研究者たちの考える、人間の「心」と「身体」
まずは、お2人のこれまでの研究について伺えますか。
中﨑私は、「食」の領域において人に良い影響を及ぼす機能とは何なのか?ベネフィットとは何なのか?を追求しています。学生時代は栄養学や分子生物学が専門で、植物中に含まれるポリフェノールなどの抗酸化成分を細胞に与えて、どんな影響が現れるか、といった実験を繰り返していましたが、徐々にそうした基礎研究を社会実装する方向へと関心が向いていきました。そのためには、やはり企業で働くというのが最短の道と考え、現在はキリンの傘下となっている協和発酵バイオに就職することを決め、食品の機能性を評価するという切り口で研究者としてのキャリアをスタートさせました。
入社後は、「脳機能に可能性がある素材を研究する」というテーマをもらい、以来、欧米を中心に脳の健康維持への貢献が期待されている成分「シチコリン」の研究などを続けています。
恩蔵私は、大学時代の専門は物理でした。そこから、より複雑で解明することが難しい「人間の心」の領域に関心が向かっていきました。そして、人間の高次脳機能(言語や行為、知覚、認知、記憶、注意、判断、情動など、大脳で営まれるさまざまな機能のこと)に関わる研究をするようになって。
また近年は、人間の高次脳機能を最大限に高めたような存在である「人工知能(AI)」に大きな注目が集まっていますが、AIが、無限に情報を収集し、それを元に無限にアウトプットが可能な存在だとすると、一方の私たち人間は、この1リットルほどの小さな脳を使ってなんとか生きていかなければならない。これはまあ、すごく心細いものです。そこで現在は、そんなささやかな、しかしさまざまな可能性を秘めた「人間の脳」を最大限に活用するために、どんなことをすればいいのか、というところに関心が向かいつつあります。
例えば、どんな栄養を与えたら、脳はより活性化するのだろうか?といったことですね。つまり、脳を独立した器官ではなく、もっと「身体の一部」として捉える視点を持つべき、と考えるようになりました。いわば、中﨑さんの研究・開発領域である機能性食品のようなものの重要さに、遅ればせながら思い至った格好ですね。