「アコチル」から読み解く、富士の環境から生まれる地域と企業の共創リージョンポート合同会社 代表 / 田近義博
キリンディスティラリー株式会社 企画総務部 / 吉井浩一
キリンディスティラリー株式会社 企画総務部 / 武内一晃

地元の社会も、企業も、そして来場するお客さまも。かかわるものすべてが“よくなる”サスティナブルな音楽フェス「ACO CHiLL CAMP」(通称:アコチル)。2015年より静岡県・御殿場市で始まり、今やファミリー参加型フェスとして屈指の人気を誇るこのフェスは、コロナ禍以降も来場者数を伸ばし続けている。

そんな稀有なフェスが誕生した裏にあった「御殿場という地域をかっこいいと思ってほしい」という共通の想い。運営を担うリージョンポート代表・田近義博さんと、フェス創設当初から特別協賛を行うキリンディスティラリーの吉井浩一、武内一晃に、同フェス誕生の経緯とその価値を聞いた。
「アコチルを機に、地域の“風向き”が大きく変わりました」と言う田近さん。地域の環境を活かし、企業と地域がともに発展する創生のかたちとは?

田近義博

リージョンポート合同会社 代表

1979年生まれ。静岡県御殿場市出身。東京で観光専門学校を卒業後、旅行会社や広告代理店に勤務し、2011年より地元に戻り御殿場を盛り上げる活動に携わる。広告事業などを手掛けるリージョンポート合同会社代表。

吉井浩一

キリンディスティラリー株式会社 企画総務部

1981年キリン・シーグラム株式会社(現:キリンディスティラリー株式会社)入社。現在、企画総務部の広報担当として会社や製品のPR、およびインナーブランディングを行う。御殿場の自然環境を守るための環境保存活動にも携わる。

武内一晃

キリンディスティラリー株式会社 企画総務部

2021年秋にキリンディスティラリー株式会社着任。吉井と同じく広報業務を担当する。企画総務部長として全般を統括する。

【アコチルとは】

静岡県御殿場市にある富士山樹空の森をメイン会場とする音楽フェス。群馬県で開催されている「New Acoustic Camp」(通称:ニューアコ)内の「アコチルエリア」から派生した兄弟イベントとして、2015年にスタート。“3世代がファミリーで楽しめるフェス”をテーマに、音楽やスポーツ、お笑いなどのステージ、各種ワークショップ、アスレチック、飲食コーナーを展開。2022年5月21日、22日に、第7回目の開催を実施した。

【キリンディスティラリーとは】

富士の伏流水と年平均気温13℃、1年を通じて幾度となく発生する霧など恵まれた自然環境の中で、ウイスキーをはじめミネラルウォーター、缶チューハイなど、キリングループの多種多様な製品を製造。キリンビールが100%出資する機能子会社。

キリンディスティラリー株式会社

目次

  1. 13年ぶりの地元・御殿場は“宝物”だらけだった
  2. 親子3代が一緒に楽しめるフェス・アコチルのはじまり
  3. 「三方良し」が自然と実現されるフェス
  4. 御殿場も会社も一緒に発展するための「つながり」を

13年ぶりの地元・御殿場は“宝物”だらけだった

━━田近さんが御殿場を盛り上げる活動に携わることになった経緯を教えてください。

田近:私は地元・御殿場の高校を卒業した後、東京で観光の専門学校に進学し、その後東京の旅行会社や広告代理店で働きました。仕事は好きだったのですが、東日本大震災と30歳になったのを機に、地元に戻ることにしました。

地元に帰って感じたのが、御殿場には“宝物”がいっぱいあることです。でも、それをみんなあまり活かせていないなとも感じました。

━━宝物とは、どんなものですか?

田近:地元に戻る車中でまず感じたのが、富士山の雄大さです。「富士山、でっかいなー!」と。この光景を、東京から1時間ほどの場所で見られるのは、あらためてすごい魅力だなと思いました。

武内:私がキリンディスティラリーに赴任したのはまだ半年ほど前のことですが、当地に来たときは、まさに東京から1時間ちょっと運転したところに圧倒的な富士山が現れ、驚きました。そこは本当に、御殿場の絶対的なセールスポイントだと思います。

田近:実際に御殿場を巡ってみると、富士登山の御殿場口には、富士山最大の側火山である宝永山や、富士山山頂の絶景を眺められる双子山、自然の神秘を味わえる自然休養林などもあります。

あわせて御殿場が抱える課題も浮きぼりになりました。まずは前述の通り、富士山麓ならではの“資産”が、地域の活性化にあまりつながっていないこと。御殿場といえばアウトレットが有名ですが、4つしかない富士山の登山口の1つがあることは意外と知られていません。それ以前に、御殿場に富士山があること自体を知らない人もけっこういます。

吉井:昔は御殿場駅の周りには登山客が泊まる旅館がたくさんあったそうですが、今ではほとんどありませんよね。

田近:そうなんですよね。賑わっていた当時の記憶があるからなのか、「御殿場には富士山があるから大丈夫」と思う人が多いんです。でも実際のところ、地域はそれほど盛り上がっていない。だから、まずはそういった考えをなくし、御殿場の名前とそこにあるものを、全国の人たちにきちんと知ってもらう必要があるなと。

御殿場に戻って以降は、この土地の自然を守り、継承していくという想いを胸に、森林整備の事業や、トレイルランニング大会「ウルトラトレイル・マウントフジ」の開催、富士山5合目で安全登山や環境保全の啓発・観光案内などを行うトレイルステーションの設置、アニメとタイアップしての観光PRといった取り組みに携わってきました。

富士御殿場蒸溜所の裏にあるキリンの森。アコチルの際はこのステージでイベントも開催。

━━キリンディスティラリーでは、これまで地域の環境や社会に対して、どんな取り組みをしてきましたか?

吉井:キリンディスティラリーでは、ウイスキーはもちろん、ミネラルウォーターや「氷結」などチューハイを製造していますが、どの製品も「水」が一番の原材料となっています。つまり当社の製品は、富士のきれいで豊かな水に支えられているわけです。

そこで当社では以前より「水源の森活動」や「土に環る木森づくりの会」といった、水源の保全につながる取り組みにかかわってきました。2021年には、NPO法人と県、市と森林整備活動などを通して未来の子どもたちに豊かな森林環境をつなげる「しずおか未来の森サポーター協定」も締結しました。

さまざまな団体さまとつながりながら、地域の環境や社会に寄与する。そういった取り組みを通じて、当社の製品や蒸溜所に親しみをもってもらいたい。その一環として、田近さんからお声がけいただき、アコチルに特別協賛させていただくことになったんです。

親子3代が一緒に楽しめるフェス・アコチルのはじまり

━━あらためて、アコチルがスタートした経緯をお聞かせください。

田近:根底にあったのが、御殿場に住む人たちに、自分が住む街を「かっこいい」と思ってもらいたいという気持ちです。

そんなあるとき、「今、フェスを開催したい知人が会場を探しているんだけど、御殿場はどうだろう?」と友人から連絡が入りました。これまでそういったイベントとは縁遠かった御殿場でフェスを開催すれば、企業やアーティストの力をお借りし、御殿場のもつ自然や美しさを広く知ってもらえるのではないかと思ったんですよね。

2014年11月、まずは「アコチル」の前身として、御殿場の小規模キャンプ場を借り、プレイベントとして簡易フェス「G-CAMP」を開催しました。トライアルの気持ちで小さく始めたのですが、いざフタを開けてみると、1日あたり約2000人ものお客さまが来て楽しんでくれました。ここまで多くの方に来ていただくとは思っていなくて、関係者一同、驚きとともに可能性を感じたのを覚えています。

━━その翌年、キリンディスティラリーの特別協賛が決まり、「アコチル」を開催できることになったんですよね?

吉井:当社にとって2015年は、ウイスキー「富士山麓」が発売10周年を迎える節目でした。「G-CAMP」の盛り上がりを目の当たりにして感動した当時の社長が「よし、うちもぜひ一緒に盛り上げよう」と協賛にGOを出した形です。

せっかく協賛させていただくなら、従業員やその家族も含め、みんなに喜んでもらいたい、笑顔になってもらいたいという思いも強くあったので、“3世代がファミリーで楽しめるフェス”というテーマにも、とても共感できました。世代間の交流を通じてアコチルが盛り上がり、地域が潤うことで、あわせてウイスキーづくりを行っている富士御殿場蒸溜所のことも広く知ってもらうきっかけになればいいと思いました。

また、ゆくゆくは従業員が「御殿場に住んでるの?」「富士御殿場蒸溜所に勤めてるの?」と、周りからうらやましがられるようになったらいいな、と。

田近:おっしゃる通り、地域を真に盛り上げるには、世代を超えて思いが継承されることが何より重要です。だからこそ、アコチルが次の世代やそのまた次の世代に継承する場になればいいと思っています。

実際にイベントでも、音楽やお笑いのステージだけでなく、ものづくりブースやサッカー教室など、子ども向けのワークショップにも力を入れています。キリンディスティラリーのみなさんにも、鳥を呼ぶバードコールづくりなどのワークショップを開催していただいています。

またイベントを一緒に作っていただく方々も、できるかぎり地元の方、それも20代~30代(当時)の若い世代を中心にお願いしているんです。大工さんから電気屋さん、飲食ブースを担う酒屋さんなどなど、みなさんフェスというものが初めてのことで当初は苦労しましたが、今ではすっかり頼れる存在になっています。

「三方良し」が自然と実現されるフェス

田近:サステナブルの文脈でいうと、アコチルでは設営に使う資材のほとんどをリサイクル材でまかなっています。装飾に関しても、1年目で作ったものをずっと使っているし、壊れたらフォトフレームなど他のものに転用しています。だから1回使って捨てるようなことはほぼゼロです。最初はそれなりにお金がかかってしまいましたが、おかげで以降の制作費は通常のフェスと比べると相当に抑えられています。

その最初の費用を負担してくださった企業こそが、キリンディスティラリーです。イベントが一番大変だったときに多大なご支援をいただいたおかげで、今もフェスを開催ができているんです。本当にありがたかったですね。

━━アコチルがスタートしてから、どんなことが変わりましたか。あらためて、アコチルの価値とは何でしょう?

田近:キリンディスティラリーのような企業の協賛のもとアコチルが始まったことで、同じように企業と連動しながら地元に新しい風を吹かせようと思う人や、地元に貢献したいと思う企業が目に見えて増えました。

そういう意味で、「アコチル」をきっかけに、だいぶ風通しがよくなったと感じています。

吉井:よく「Win-Win」といいますが、それが自然と実現されているのが、「アコチル」なのかなと。田近さんは御殿場の風通しをよくし、地域を盛り上げ、それを次世代や次々世代につなげたい。アコチルに来るお客さまは、家族で気持ちよい時間をすごし、子どもにかけがえのない体験をしてもらいたい。私たちキリンディスティラリーは、ウイスキーやその他製品のことを広く知っていただきながら、従業員が地域とのつながりを大切にすることに喜びを感じる会社にしたい。

「アコチル」に関わるみなさんが、長期的な目線でそれぞれがよくなる形を見つける。それにより、御殿場という土地が結果的に恩恵を受けているのが、「アコチル」のすばらしい点ではないでしょうか。

御殿場も会社も一緒に発展するための「つながり」を

━━今後、地域の社会や環境に対して、どんなアプローチをしていきたいですか。

田近:あらためて御殿場には、「実は◯◯」が多いなと感じています。実は秩父宮記念富士登山駅伝競歩大会という宮杯のレースがあったり、毎年品評会で高く評価される御殿場産わさびがあったり。それこそ、キリン唯一のウイスキー蒸溜所「富士御殿場蒸溜所」があります。食べ物、飲み物、水も含めて「実は◯◯」が多いので、御殿場という地のもつ魅力をもっと広めていきたいです。

武内:富士御殿場蒸溜所は「地元に愛される蒸溜所」を目指していて、地域と一緒に繁栄していきたいと考えています。だから少しでも当社が貢献できることはやっていきたい。「アコチル」の取り組みのように、街も会社も一緒に発展し、次世代にこの美しい御殿場を継承するための「つながり」を、今後どんどんつくっていきたいです。

吉井:その結果として、御殿場にいることがうらやましがられるようになり、多くの人が「行きたいな」「住みたいな」と思う場所にできたらいいですね。個人的な話にはなりますが、私の娘は結婚して御殿場を離れていますので、その次の世代である孫に「おじいちゃん、御殿場に住みたい!」と言ってもらうことが目標です。

田近:キリンディスティラリーから「アコチル」に特別協賛をいただく際、当時の城戸元社長が私におっしゃったことを、今でもよく覚えています。彼はこう言いました。「富士御殿場蒸溜所をキリンビール広島工場のように地元に愛される拠点にしたい。」と。

戦前から町内でビールを製造し続けた広島工場は地元の人たちとの距離がとても近く、仕事が終わって会社のユニフォームを着て街を歩いていると、「おい、寄っていけよ」「こないだの新商品、なかなかいいね」などとみんなが声をかけてくれ、とてもいい雰囲気だったそうです。それは、企業と地域が一体となって発展し続けたからに他ならないと。

残念ながら広島工場は2010年に製造終了しましたが、「将来、富士御殿場蒸溜所を、かつての広島工場のような存在にする」という元社長の夢を、私もぜひ果たしたいと思っています。そのためにも、やはり継続が大切になりますし、互いに高め合っていける企業をもっともっと増やしていきたいですね。

公開日:2022年7月11日

※内容、所属、役職等は公開時のものです

  • 撮影:上野裕二
  • テキスト:田嶋章博
  • 編集:RIDE MEDIA & DESIGN

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