ワインをつくることで、自然を守ることもできる。
企業活動と自然保護のWin-Winな関係植生生態学・景観生態学の専門家 / 楠本良延
KIRIN CSV戦略部 環境チーム / 藤原啓一郎

長野県上田市丸子地区陣場台地に広がるシャトー・メルシャンのブドウ畑「椀子ヴィンヤード」。シャトー・メルシャンと、日本の農業、食糧、農村、環境に関する研究を実施している国立の研究所である農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)は、約8年間、椀子ヴィンヤードの生態系調査と植生の再生活動に取り組んでいる。

なぜ、日本ワインのためのブドウ畑が豊かな生態系を育んでいるのか?
植生生態学・景観生態学の専門家・楠本良延氏と、KIRINのCSV戦略部で環境コミュニケーションを担当する藤原啓一郎が語り合った。

楠本良延

国立研究開発法人 農研機構 上級研究員(博士)

植生生態学、景観生態学が専門。農業により育まれる生物多様性の研究を行っている。農業生産と生物多様性の両立する持続的な社会構築への貢献がライフワークである。

藤原啓一郎

キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部 環境チーム

電気工学部を卒業後、主に生産技術エンジニアとして勤務の後、2006年よりグループの環境管理・方針・戦略策定を担当し現在に至る。
環境省・環境報告ガイドライン検討会委員、TCFD(※)業種別ガイダンス検討委員など各省庁の委員歴任。

※TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は金融安定理事会が設立したもので、気候変動によるリスク・機会の財務的影響を企業が自主的に情報開示することを促す提言を公表している。

目次

  1. ブドウ畑が豊かな生態系を育んでいる理由
  2. 「農業」で副次的に自然を守る。企業活動と自然保護のWin-Winな関係
  3. 「生物多様性=命の賑わい」がもたらす、自然の回復力
  4. 先行資料は1本の論文のみ。手探りで進めるクララ植生と希少種・オオルリシジミへの道
  5. 「安心安全」だけでは足りない。未来の消費者の“当たり前”を目指して
  6. キーワードはローカル。地域から考える「自然資源」のこれから

ブドウ畑が豊かな生態系を育んでいる理由

——ここ椀子ヴィンヤードで、生態系調査を始めることになった経緯を伺えますか。

藤原:日本ワインの造り手であるシャトー・メルシャンは、高品質なワイン用ブドウを安定して確保するために広い土地を探す中で、この地に出会ったそうです。色々と探した後、陽当たりの良さ、降水量の少なさ、排水性・通気性に優れた場所として、ここ椀子ヴィンヤードのある上田市丸子地区陣場台地にたどり着いたと聞いています。その時は農業をやめて放置されていた遊休荒廃地になっていたそうですが、地元の方々の協力を得ながら、ブドウ畑へと転換し、2003年に開場したそうです。

2010年に、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されたことを契機として、キリングループは「生物多様性保全宣言」を発表し、お酒や飲料の原料である農産物の生産地における生態系リスク評価と対応を始めていました。ちょうど、日本ワインの市場が拡大し、椀子ヴィンヤードなど日本のブドウ畑を広げるという話になったことから、遊休荒廃地を畑にすることが、環境に悪い影響を与えていないかどうか調べようということになりました。私たちは専門的な知識も経験もありませんでしたので、農研機構の先生方の協力を得て、まずは椀子ヴィンヤードを見てもらうことから始めました。

2014年の秋に、農研機構の先生方を椀子ヴィンヤードにお連れした時のことは鮮明に覚えています。上田駅からタクシーに乗って、田園を抜けて陣場台地を上り左手に椀子ヴィンヤードが見えてきた瞬間、隣に乗っていた先生が突然話しかけてきたんです。
「ここはすごい。調べれば絶対に希少種などの生き物が見つかると思いますよ」。
そう突然言われ、大変に驚いたことを覚えています。

ちゃんとした形で調査したほうが良い、という先生方からのアドバイスもあり、2015年から農研機構とキリングループの共同研究という形で、生態系の調査をはじめました。当初は、「ブドウ畑に開場することで環境に悪影響がないか」という懸念からスタートしたのですが、2015年に昆虫の研究者が調査をすると、環境省のレッドリストに掲載されている希少種が見つかったり、2016年に植生調査を行った際には植物についても希少種が見つかったりと私たちも大変に驚きました。

最初はただ驚くばかりだったのですが、調査を進めていくと、実は遊休荒廃地を日本ワインのブドウ畑にすることが生態系を豊かにするということが徐々にわかってきました。

——素朴に考えると、自然な状態……つまり、放置されたままの土地のほうが、生態系が保たれていそうなイメージもあるのですが、むしろ人の手が入ったほうが活性化する、ということでしょうか?

楠本:まず、自然と一口に言っても、大きく分けて2種類あるのです。1つめが「原生自然」。人間の手が一切入っていない、手つかずの自然です。でも、そういうところは、日本の国土には僅かに9%ほどしかありません。その他の、国土の80%くらいを占めるのが、2つめの「二次的自然」なのです。

後者は田や畑、果樹園など、主に農業により、人の手でつくり上げてきた身近な自然が「二次的自然」です。他には新宿御苑などの都市域につくられた公園などもそうですし、ヴィンヤードも、ここに含まれます。こういった人工的な自然は新しいもののようにも見えますが、人間の歩みと歩を揃えるように発展してきたわけで、特に農業に伴う二次的自然は数千年以上の歴史があるのです。みなさんがイメージする身近な「自然」は、いわゆる「里地里山」だと思いますが、まさにこれが二次的自然なのです。

「農業」で副次的に自然を守る。企業活動と自然保護のWin-Winな関係

楠本:二次的自然のなかでも、特に注目されているのが草原です。高い木がほとんどなく、草によって覆われた土地のことです。有名なのは熊本県阿蘇市の草原です。草原が、多様な生物を育てる環境として優れていることが、これまでの研究で明らかになっています。
実は、120〜130年前、日本は国土の30%くらいが草原だったのです。それが、近年急激に減少傾向にあり、今ではもう1%を切るという調査結果が出ています。昔は草原で草刈りをしたものを牛や馬の餌にしたり、農地に撒いて耕して肥料にしたり、または屋根材として使ったりと多くの用途があったものが不要になってしまった。かつては人間の暮らしに必要だった草原を維持することは非常に厳しい状況なわけですが、これを守り、むしろ増やしているのが、ワインのブドウづくりにおける垣根栽培・草生栽培という手法なのです。

垣根をつくるようにブドウの木を育てる垣根栽培は、その形状から地面にまで日光が降り注ぐため、背丈の低い植物が生育しやすい。さらに、年に数度行う下草刈りによって、草原性の在来種や希少種に陽が当たるようになる。こうして、椀子ヴィンヤードでは、30ヘクタールにおよぶ広大な草原が形成されるに至ったという訳です。

藤原:ワイン用のブドウをつくるためにやっていたことが、たまたま環境に良かったとも言えるかも知れませんが、遊休荒廃地を草生栽培のブドウ畑にすることが草原を創出する仕組みになっていると分かったことは大きかったと思います。ここ陣場台地自体がそもそも非常に豊かな、高いポテンシャルを持った土地だったということでもあります。

楠本:椀子ヴィンヤードがある陣場台地は、このブドウ畑や雑木林、水田、ため池、水路などがモザイク状に存在しています。いわゆる里山環境がすでにあったという地の利は大きい。かつての良好な里山景観という視点で見ると、唯一なかったのが草原で、それがブドウづくりを通して大きな面積で補われたことで、文句なしの自然環境が出来上がったわけです。しかも、これほど広い面積で農業活動により草原が存在する場所は今の日本では非常に珍しいのです。

面白い調査結果があって、単位面積あたりで比べてみると、実は原生自然より、圧倒的に二次的自然のほうが、生き物が豊かなのです。しかし、二次的自然は、農業のような形で常に働きかけを続けないとダメになってしまいます。

例えば、畑作を放棄してしまうと、その土地に適した特定の植物が出現し、蔓延してしまいます。大面積をその植物だけが覆ってしまって、他の植物が入り込めないようになってしまうのです。
一度人が手を入れてしまった土地を放置してしまうと、すぐに自然林に戻ったりすることはほとんどなく、特定の植物に占有されてしまい、ただの荒地になってしまうということが最近の研究でわかってきました。ここ椀子ヴィンヤードでは、ブドウを栽培するという目的のために草刈りをする。そのことで、副次的に自然が守られている。無理がなく、理にかなっていますし、すごく良い循環が生まれていると思います。

藤原:少なくとも、メルシャンがブドウづくりを続けている限りは、この土地の草原が守られ、自然は守られるということです。ワインを造る、それによって草原が創出され、自然を守ることもできる。まさにWin-Winな関係性ですね。

「生物多様性=命の賑わい」がもたらす、自然の回復力

——椀子ヴィンヤードでは現在、お2人が中心となり、生態系調査で見つかった希少種を含む多様な生きものを守り育てていくという、生物多様性保全のための調査研究を行っています。そもそも、生態系が多様であることが、作物や土地にとって良いのはなぜなのでしょうか。

楠本:生物多様性とは、とても大きな概念なのですが、一言でいえば「命の賑わい」です。たくさんの生物がいればいるほど良い、という考え方です。その理由は、大きく3つあります。
1つは、多種多様な生き物が同時に生きられる世界のほうが、少ないよりずっといいという倫理的な理由です。
2つめは、遺伝子レベルでの多様性が重要なのです。例えば、私たちが食べているお米、野菜、お肉など、すべて他の生き物の遺伝資源です。それがなかったら人間は生きられない。私たちは、そうした多様な生物からの恩恵を受けて生きていける。
3つ目は、環境の安定性のため。いろいろな生態系が豊かだと、気候変動や災害といった大きな環境の変化に対しての防衛力や回復力が強くなると言われています。

藤原:例えば、花の受粉があるじゃないですか。あれは、蜂をはじめとした虫たちが担っているわけですが、我々は日常的に蜂が受粉に貢献していることを、ことさら意識しませんよね?でも、その蜂が急にいなくなってしまったら、人が代わりを務めなければ作物ができなくなってしまう。でも、世界中の畑の花の受粉をすべて人間がまかなうことは不可能です。
蜂がいなくなると、途端に環境は激変し、我々は食糧問題などに直面せざるを得なくなる。普段、目には見えていないけれども、実はいろいろな生き物の活動が積み重なり、連動することで今の状態がある訳です。この世界の生態系は複雑にできていて、それが保たれている限りは、どこか1つが欠けても、他のどこかが補ってくれる。そうした自然に備わった回復力を支えているのが、生物多様性なのです。

先行資料は1本の論文のみ。手探りで進めるクララ植生と希少種・オオルリシジミへの道

——現在、椀子ヴィンヤードを舞台に産学連携で行われている取り組みついて、具体的にどのようなことをされているのか教えてください。

藤原:ブドウの栽培を通して草原が生まれ、その結果、多様な生態系が守られているということがわかりました。次のステップとして、椀子ヴィンヤードで見つかった希少種・在来種を増やすお手伝いをする活動を始めました。
というのも、残ってはいるものの、極端に株数が少なかったり、脆弱な種というものがあるからです。希少種を含め、在来種のなかには種を飛ばすのが下手な植物があります。そこで、秋になって希少種や在来種がいる場所の畑の枯れ草をすくい取り、再生場所として決めたエリアに運ぶ。枯草の中に種があるので、種を運ぶのを助けてあげるのです。そういう活動を続けています。

楠本:その甲斐あって、希少種の定着も確認できましたし、他の在来種も、一部は調査を始めた時点から倍近くまで増えていますね。

蝶の希少種、オオルリシジミの写真

藤原:それから、蝶の希少種、オオルリシジミの幼虫の唯一の食草である「クララ」を増やす活動にも力を入れています。調査の過程で畑の中に20株程度いるのを見つけていたのですが、水路を作るために移植しなければならなくなりました。楠本先生がクララの移植に関する論文を調べてくれたのですが、たった1つしか見つからなかったんですよ。それを読むと「移植すること自体は可能だが生存率は50%」とありました。実際に移植してみたら、本当に50%が生き残ったんです。その経験から、これは挿し木でトライしたら、もしかしたら増やすことが出来るかもしれない。クララが増やせるなら、椀子ヴィンヤードにもオオルリシジミを生息させることができるかもしれないぞ、と思った訳です。
でも、簡単にはいきませんでした。とにかく情報が少なすぎて…あとは実地で試行錯誤を重ねていくしかありませんでした。

楠本:とにかく「何でも試してみる」の精神でやっていましたね。それしか方法もなかったのです。でも、その結果、不明だった挿し穂を採る季節なども、徐々にベストな時期がわかってきました。今では、挿し苗に育てるくらいまでは、難なくできるようになりました。最初の手探り状態の時期を考えれば、大きな進歩です。

「安心安全」だけでは足りない。未来の消費者の“当たり前”を目指して

——クララ栽培に関しては、地元の塩川小学校の小学生たちによるボランティア活動も大きく寄与しているようですね。

オオルリシジミの幼虫の唯一の食草「クララ」

藤原:メルシャンと上田市には連携協定があります。その関係で依頼を受けて、小学校で環境教室を行ったのです。その際、校長先生にクララの話をしたら大変に興味を持っていただき、「それ、うちの小学校も参加できませんか」と手を挙げてくださったんです。昨年の夏の終わりに、楠本先生のところで地植えできる状態にまで育てた苗を小学校に送り、花壇に植えていただきました。ちょうど新型コロナウイルスが蔓延している時期で、先生も私も現地には行けず、ZOOMを使ってオンラインで指導して、児童の皆さんに花壇に植えていただいたのですが、大変上手くいきました。それを今年の5月末まで花壇で育てていただいたのです。

楠本:5月末に、花壇で大きく育ったクララを掘り出して、椀子ヴィンヤード内の再生場所に植え替える課外授業をしました。身近に素晴らしい自然環境があっても、近すぎるとその価値やありがたみに気がつかなかったりするのですが、塩川小学校の子どもたちにとって、今回のクララを植える活動が、身の回りに広がる自然という地域の宝物に気づくきっかけになってくれたら嬉しいですね。

——実際に植え替え作業をしてみて、子どもたちの反応はいかがでしたか。

楠本:実は、昨年、花壇への植え付け後、児童の皆さんが感想文を書いて送ってきてくれたのです。すごく感動しました。今回も「クララって、とっても大事なんですね。そんなに大事なものだとは知りませんでした」といった子どもらしい素朴な感想もあれば、「日本は草原が少なくなってきていると知りました。そういう貴重なものが、僕らの住む地域にあるのはとてもいいことですよね」というしっかりとした意見もありました。クララという植物が、アイコンとなって、自然に対する理解が進んでいるのを実感します。彼らが、環境や生物に対するこうした意識を持ったまま大人になるのなら、未来は明るいなと感じています。椀子ヴィンヤードが未来を担う子どもたちの生きた環境教育の場になっているということは、地域社会にとっても、企業にとっても素晴らしいことです。私は理想的なCSV(※)のあり方だなと考えています。

※CSV:「Creating Shared Value」の略。共通価値の創造。社会的ニーズや社会問題の解決に取り組むことで社会的価値の創出と経済的価値の創出を実現し、成長の次なる推進力にしていくこと。

藤原:彼らよりも少し年齢が上になりますが、いわゆるZ世代と呼ばれる若い方たちは、すでに自然環境に対する意識がかなり進んでいると実感しています。実は「キリン・スクール・チャレンジ」という中高生向けのワークショップをやっているのですが、そこで話をしていると中高生は、「環境問題について声を上げよう!」という形ではなく、とてもナチュラルに「自然をまもるのは当然」という感覚があることがよくわかります。また、安心安全だけでは、飲み物を買っていただくことが難しくなってきていると感じています。社会の課題にしっかり対応した商品を選び、社会課題を事業で解決している企業に関心が向く。こうした傾向は、小中高の学習指導要領にSDGsが入ってきて授業で取り上げることが浸透した今、ますます強まっていくでしょう。

楠本:私も、講演などでZ世代の人たちと触れ合う機会がありますが、彼らと話していると本当に驚かされます。以前話したある子は、「ちゃんと認証をとったりしている企業の商品しか買いたくない」と明言していました。理由を聞いたら、その答えが興味深くて「だって、そっちの方がライフスタイルとしてクールだし、ラグジュアリーじゃないですか」って!

藤原:環境問題にちゃんと対応しているということは、彼らにとっては当然のことで、もはや特別なことでもなんでもないんですよね。そうした世の趨勢を見ていると、我々企業も、環境対応などの社会課題の解決を、特別のことではなく“当たり前”にやっていないと、相手にしてもらえなくなるんだろうなと感じます。

キーワードはローカル。地域から考える「自然資源」のこれから

藤原:とはいえ、自然資本を大切にしながら企業活動をしていますよ、ということを知ってもらうのは、難しいと感じています。例えば気候変動対応であれば「いついつまでにCO2排出量をここまで下げましょう」といった、具体的に数字を伴った目標設定ができますが、自然資本ではなかなかできない。

楠本:明快な正解がないから、説明が難しいのですよね。自然資本、生物多様性というのは、それを判断する上での統一の物差しがないので。

藤原:気候変動は、グローバルな課題ですよね。どの国・どの地域でCO2を出しても、それは大気に拡散し、地球温暖化につながる世界共通の課題になるのです。だから、日本であろうと、地球の裏側であろうと、CO2を出さないようにしないといけない、というコンセンサスが存在する。ところが生物多様性と言った自然資本というのは、その「場所」に固有のものなんです。

楠本:相対化できないのですよね。だから、地域と地域の間で補い合うことも難しい。

藤原:例えば、「ここの自然を破壊するけど、別の場所で自然を増やすから良い」といったら、ダメな訳です。その自然は、その場所にしかないからです。失われてしまうと、もう取り戻せない。最近、私たちは、これは「テロワール」という言葉で説明すると理解してもらいやすいことに気づきました。この場所のブドウは、極端な話、隣の畑のブドウの木では代替できない訳ですよね。それが自然資本の特徴なのです。

楠本:こうしたことからも、自然資源というものを考える時、突き詰めるとローカルが重要なキーワードになるのではないかなと思っています。ローカルはローカルなりの良さというものを持っているので、そこを追究していって、それぞれがそれぞれの良さを認め合っていくことが大事ではないでしょうか。
とはいえ、人間は比較や相対化することで物事を把握していくものなので、いずれは自然資源をめぐる物差しができたらいいな、とは思います。これに関しては、私たち研究者が頑張っていかなければいけないところだと思います。まずは身近なところから、それこそローカルから、未来に向けてコツコツとやっていくしかない。塩川小学校の生徒さんたちとの活動も、そのための大事な一歩です。

藤原:だから、クララの活動でも地域の皆さんに参加いただくことに意味があるのです。ここは貴重な自然のある魅力的な場所です。このローカルな、この場所にしかない自然を守る活動だからこそ、私たちはそれを地域の方たちと一緒に保ち、より良いものにしていくことにまずは注力したいと思っています。

また、今回の知見を世界に発信していきたいと考えています。今、生物多様性条約の議論の中で、2030年までに「陸と海で30%の自然保護区域をつくる」ことを目指す国際目標「30by30」が提唱されています。日本は国有地などを集めれば約20%までは賄えるのですが、不足分の10%は民間地から選定する必要があります。椀子ヴィンヤードを始めとしてシャトー・メルシャンの草生栽培の畑は十分対象になるのではないかと考えています。「30by30」は国際的な決まりなので、日本だけではなく、どの国にいっても自然豊かな畑なんだということが通じます。

椀子ヴィンヤードは、森林保全活動などの保全のための活動ということではなく、ワインのためのブドウ栽培を行っていることで、自然が生まれ維持されるという特徴があります。これは、草生栽培のヴィンヤードなら、どこでも条件が整えば同じことが言えるはずです。この活動を始めた時から楠本先生や農研機構さんと約束しているのですが、ここで発見したノウハウは、独占するのではなく、ホームページや論文などを通して、どんどん公開することにしています。他のヴィンヤードでも、使える知見は使ってもらい、日本中のヴィンヤードが日本の自然を生み出し、維持されると良いなと思っているからです。椀子ヴィンヤードでの試行錯誤が、いずれは日本ワイン全体の価値を向上させるための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー・椀子ヴィンヤードのご紹介

シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー長 小林弘憲
「椀子ヴィンヤード」は、2003年に長野県上田市に開園した東京ドーム約6個分の自社管理畑で、「メルロー」、「シャルドネ」、「シラー」や「ソーヴィニヨン・ブラン」など、8種類のブドウを垣根式で栽培しています。2019年にはヴィンヤードの小高い丘の上に、ブドウ栽培からワイン醸造まですべてを見学できる「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」を開設しました。
上田市のみなさまといっしょにつくりあげてきた「椀子ワイナリー」は、おかげさまで「世界最高のワイナリーベスト50」を選出する「ワールド ベスト ヴィンヤード」に、2年連続、日本で唯一選ばれるなどの高い評価をいただいています。
これからも地域・自然・未来との共生を大切にしながら、「椀子を、シャトー・メルシャンを、日本を、世界の銘醸地にしたい」という熱い思いでブドウ栽培・ワイン造りに励みます。
ワイナリーツアーも実施していますので、ぜひワインと自然を楽しみにいらしてください。

公開日:2022年6月22日

※内容、所属、役職等は公開時のものです

  • 撮影:馬場わかな
  • テキスト:辻本力
  • 編集:RIDE MEDIA & DESIGN

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