新型コロナウイルス感染拡大以降、求められているのはカルチャーを背負ったプロダクツ
栗野さんは、アフリカの人々と協働してものづくりを始める以前は、アフリカの文化にどのようなイメージを持たれていましたか?
栗野憧れがありましたね。アフリカの人々がつくるハンドクラフトや、彼らの服の着こなしに強い興味がありました。それに、アフリカ大陸には55※の国があり、各地域でつくるものの傾向が異なります。
※アフリカ連合加盟国数
ジャングルの多いところはジャングルっぽい色味、砂漠が多い地域は砂漠っぽい色味と、土地のカラーやカルチャーがそのままクラフトに表れている。ぼくはそういった服の「向こう側」にあるものに興味があるんです。
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栗野宏文氏
栗野そして、アフリカとファッションといえば、日本ではコンゴ共和国、コンゴ民主共和国の「サプール」(SAPEUR:「お洒落で優雅な紳士協会」という意味のフランス語の頭文字からとって、そう呼ばれている)のことが大きな話題になり、NHKでドキュメンタリーもつくられました。ポピュラーになったのは最近ですが、彼らは実はぜんぜん新しい存在ではなくて、実に100年近い歴史があるそうです。日本でも、1970年代くらいから『POPEYE』『BRUTUS』といった雑誌で紹介されていました。
加藤そんなに昔から!
栗野サプールの洒落に身をやつす感じとか、ファッションがそのまま生き方になっている様が格好良くて感動的で、ぼくをはじめ、ユナイテッドアローズ(以下、UA)の創業メンバーは長らく憧れを抱いていましたね。
そんな伏線があったうえで、2007年に、開発途上国の人々の自立を、ものづくりを通して支援するプロジェクト「エシカル・ファッション イニシアチブ(以下、EFI)」から、「日本における活動のパートナーになりませんか?」というお話をいただき、実際にアフリカに行ってものづくりをスタートさせました。

ブルキナファソでクラフト作品を手にとって確認する栗野氏。
ITC Ethical Fashion Initiative
そうして始まったアフリカとのコラボレーションは、2014年春に立ち上げられた新レーベル「TÉGÊ UNITED ARROWS(テゲ ユナイテッドアローズ)」(以下、「TÉGÊ」)へと結実します。
加藤「TÉGÊ」というのは、マリ共和国やブルキナファソで話されるバンバラ語の言葉なんですよね。
栗野ブランド名には是非現地の言葉を使いたかったんです。それで、例えば「愛」や「友情」のような象徴的な言葉を何というのか教えてもらったのですが、いかんせん発音が難しくて、まずぼくらが覚えられない(苦笑)。
そんな折、何かの拍子に現地の人が「テゲ」と言ったのが耳に留まりました。意味を聞いたら「手」という意味だ、と。このレーベルは、いうなればアフリカのハンドクラフトを前提にしている。まさに「手の芸」です。これ以上ぴったりなネーミングもないでしょう。そうしてぼくがディレクションを担当させてもらい、以来8年間、「TÉGÊ」として毎年プロダクツを世に出し続けています。
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手織りの生地を使用した「TÉGÊ」のトートバッグ
ここ1、2年は新型コロナウイルス感染症の拡大で、アフリカの国々とのものづくりも大変ではないですか?
栗野そうですね。現地に行くことができないので、困りました。ただ、過去にやりとりした膨大な資料が残っているので、色違いをつくったり、柄のサイズを変えたりといろいろ試行錯誤をして、いまのところやりくりしています。
これまでは地味にやってきたのですが、コロナで世の中が閉塞感を感じているからか、「TÉGÊ」のようなカルチャーを背負ったプロダクツへの関心が強まっているのをひしひしと感じています。実際、社内で、来年の春夏に向けて2つの業態から「TÉGÊ」とコラボレーションしたいと打診がありました。それに、ある外部の企業からも「TÉGÊ」の生地を自社製品に使えないかとオファーがあり、現在動き出しているところです。
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西アフリカのマリ共和国でつくられているハンドプリントの生地を使用したジャケット。アフリカの生地や柄には何らかの願いや祈りが込められていることが多いという。「TÉGÊ」では、現地の人々の文化をリスペクトし、使用する生地は「特別な意味がない柄」をセレクトするようにしている
栗野コロナ以降、人の価値観が揺らいでいるのを感じます。ただ儲かればいい、ただ多くの人の目に止まって話題的に盛り上がればいい、みたいなモードから脱却しつつあるのではないでしょうか。ちょっと大袈裟かもしれませんが、そうした流れのなかで、人の魂やカルチャーを感じられるようなプロダクツが、あらためて求められつつあるんじゃないかな、と。