自分らしい暮らしと、贅沢な時間
“食”に関する価値観の移り変わりというお話が最初にありましたけど、澤田さんは消費者意識として、「とにかく安いものを」という意識から、「自分の納得できるものや、価値を感じるものにお金を払いたい」といった意識に変わってきているという感覚はありますか?
澤田それは、すごくありますね。最近は“個”に立ち返りたいという欲望や憧れが強くなっているように感じます。そういう実感もあったので、リニューアル号の第2特集は「自分らしい暮らしを見つけたい」というテーマを据え、独自に選んだ道を歩んで生きている人たちを探しにいきました。こちらのポイントは「自分らしい」にあります。
僕は、何よりも時間が大事だと思っているんです。家族や恋人、友達たちとどんな時間を過ごすか。人生って限られているから、その中で何を選んでいくのかってことを大切にしたいなと。それってやっぱり“個”としての生き方なんですよね。
田山クラフトビールを味わうというのは、とても贅沢なひとときだと思っています。お酒を飲むと、あまり生産的なことができなくなるじゃないですか(笑)。そういう意味でも、贅沢な過ごし方だと思うんですよ。
昔はとにかく短い時間の中でたくさん飲んで、酔って、日頃から我慢している自分を誤魔化すみたいな飲み方をしていたんですけど、クラフトビールは目的が違うんです。
澤田クラフトビールの目的というのは、どういったものなのでしょうか?
田山クラフトビールを語る上でのキーワードのひとつに、「Drink less , Drink better」という言葉があるんです。つまり、そんなにたくさん飲まないけど、いい気分でいられると。要するに、自分のペースでクラフトビールを味わいながら、限りある人生の中で、いい時間を過ごしましょうっていう意味なんです。
澤田たくさん飲んで酔うのではなく、しっかり味わう時間を過ごそうということですね。
田山そうですね。極端なことをいうと、ビールって昔は味わうものじゃなかったと思うんです。
僕、未だにショックな出来事として覚えているんですけど、十数年前にビールの味や香りについてお客さんに聞いたら、「ビールに味とか香りなんてあった?」って言われたんですよね。「ビールは、喉ごしでしょ」って。
澤田僕の先輩に、「ワインも喉ごしだ」って言ってる人がいますけどね(笑)。
田山(笑)。ビールにとって喉ごしは重要な要素だけど、味や香りだって楽しんでもらいたいと思っていたので複雑な気持ちになりましたね。ビールの香りがクローズアップされるようになったのって、本当につい最近のことなんです。
澤田香りや味が、「とりあえず」「くいっと」っていう固定観念を1度ストップさせたんですね。喉ごしだけでなく、香りも楽しむという飲み方が広まっていったと。
田山そうですね。このことは、国内のビール市場の中では革命的なエポックメイキングでした。そのおかげで「ビールって、味も香りも豊かだな」って感じてくれる人が増えたと思います。